小学生の頃だったか、実家での出来事です。
私の実家は、宮崎の閑静な裏通りにあるのですが、ある時を境に、ひっきりなしに物憂げな音楽を演奏する誰かが、出現するようになりました。
そう、なんか大道芸人か?と勘違いするような、割と大きな音量で、大道芸のオープニング的にありがちな、センチメンタルなどこかロシアっぽい旋律。
そう、聞くだけで憂鬱になるメロディーなのです。
流す音楽はいつも、そのイントロっぽいようなところだけ。
気が向いたら、昼夜構わず、何か電子ピアノみたいなもので演奏を始めるのですが、すぐに飽きるのか、その短い4小節だけなんですよねぇ。
誰か最近引っ越してきた?
窓開けっ放しで、弾いてるっちゃないと?
うちの姉は、物憂げなんが大嫌いなたち。
で、その演奏が始まるたびに、いつもイライラしてました。
で、ついにある夜、またその誰かしらが演奏を始めた瞬間、道路沿いの私の部屋に突風のごとく入ってきて、窓を開けるや、
『うるさいっっ!』
と、閑静な夜の10時に、雷が落ちたような大音声で怒鳴りました。
あー、恐ろしかったですねえ。
音はピタリと止み、シーンとした静けさが辺りには戻っています。
ですが、その後もその謎の音楽は、ひっきりなしに続きました。
そしてある日の昼間、そのメロディーが聞こえ始めた直後に、近くで大声でケタケタ笑う声が聞こえました。
これもこうして書くとまるで、妖怪かなんかの怪談みたいですが、もちろん笑い主はうちの姉です。
姉はケタケタ笑いながら家に入ってくると、
『順一、あれ、自動販売機じゃった!!』
と、大笑いしながら報告してくれました。
当時流行り始めた、当たったらもう一本!的な自動販売機だったようで、誰かが買うとその悲しげなメロディーが流れて、ルーレットかなんかが回ってハズレが出て、そこでピタッと音が止まっていた、というわけです。
そしてあの夜、誰かが缶ジュースかなんかを買った瞬間に、前述の姉の
『うるさいっっ!』
が、あったわけで、いやー相当ビビったでしょうね、その人。
犯人は、最近近所に引っ越してきた大道芸人ではなく、引っ越してきたのは、ただただ、悲しげな自販機でした。
実家に帰るたびに思い出す、そのお隣さんのところには、もうその悲しげな自販機はいませんが、数世代後の現代の自販機が、後を継いで頑張っています。