小学生の頃だったか。
その時に見た光景で、たまに思い出すものがあります。
下町の十字路、明るい日射しのなかを歩く親子連れ。
お揃いのよそ行きのお洋服でおめかしした二人の姉妹が、お母さんにまとわりつくように、ウキウキと歩いています。
一人の子は母親と手を繋いで、なにやらスキップでニコニコ見上げながら、何か一生懸命話しています。
お母さんも二人を連れて、楽しそうに歩いていた。
ただそれだけの記憶なんですが。
なぜか、不思議と全く忘れないのです。
当時、宮崎市中心部にあった橘デパートには、上階にレストラン街があり、屋上には観覧車とかの遊園地がありました。
だから、そこにバスで行って、お買い物でもして、夕方には楽しくお食事かなあ。
あるいは日南線で、青島とか、こどもの国とかにでも行くのかな?
宮崎にあった『こどもの国』には、マッチ箱のような機関車が森のなかを走っていたり、そのなかに小人の館みたいな小屋が点在していたり、かたや海岸線の砂地ではラクダに乗れたり、と、まさに昭和の遊園地そのものでした。
楽しかったろうなあ。
ふと見かけた、その親子連れは、もちろんどこの何さんだか、まったく知りません。
今は大人になったであろうその姉妹自身も、その1日のことは覚えてはいないでしょうし、お母さんもご存命かどうか。
そしてたったそれだけの情報で、その家族をいまさら探し出すのは、世界中どの名探偵にも無理な話です。
ただ、僕の記憶のなかにだけ、ちいさな姉妹たちが母親と共に過ごした楽しいひとときが、今も鮮やかに息づいています。
幸せのヒトコマ。50年前に見た家族。
陽光の中の、その親子を思い出すたび、僕はいまだに、
あー、これからどこに行くのかな。
楽しい1日になったらいいね!
と、心のなかで思うのです。
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7月8日、安倍晋三元首相が、遊説中に凶弾に倒れ、ご逝去されました。
一日本国民として、心よりのご冥福をお祈りいたします。
渡辺順一