『連絡があって、保育所受かったんですよ!』
とある、寒い2月の休日。
バイクのオイル漏れ修理を、さぶいさびい言いながらやっていたら、突然声を掛けられました。
当然、自分が関与するような事柄ではないので、どこかの主婦の人がお話ししているんだろうと判断し、せっせと手を動かしていましたが、その後の沈黙が気になり、猪首をねじって後ろをみると、2階下にお住まいの主婦の方が、ナベの方をじっと見て佇んでおりました。
? と思い、一応
「こんちは!」
と、明るく声を掛けてみたら
『保育所受かったんですよ!』
と、改めて言って来ました。
(あ!俺だったの?)と慌てて、
「保育所ですか?受かったんですか?」
と答えながらも、この段階では、このお話における自分の立場と、肝心の話が全く見えてません。
ただとりあえずは、緊急ご近所付き合いモードにエンジン点火したので、子供の頃、近所の花屋のおじちゃんの人懐っこい笑顔と鷹揚さを思い出しながら、オウオウそれそれ気にしとったよ風、に振る舞うことにしました。
「保育所受かったんだ。そりゃあ良かったよー。」(完全オッチャンモード)
『連絡が来ないから区役所に問い合わせてみて。
結果聞くの、もうドキドキなんですけど。っていったら、ああ○○さん、通ってますよ。てアッサリ言われて、ハーアアてモウ気が抜けちゃって。
てっきりハガキで来るもんだとばっかり思ってたから、一向に来ないし。
思い切って電話したら、担当の人にそう言われて。ついでに失業扱いにもなってますよーって言われたから、もう嬉しくって。』
「ああー、そーなんだー。そりゃ良かったですねー。ママもこれからどんどん忙しくなるからねえ。」
と、全く話が分かってないなりに、絶対はずれないであろうところにボールを入れながら、どんどん話が勝手に進んでゆきます。
大体、ナベはその主婦の方とママ友でもないし、ただバイクの修理中にすれ違う程度のご近所ママさんから、こうオープンに色んなことを言われたら、もう受けて立たないわけにはいきません。
「保育所はなかなか受からないらしいからねえ。(ホンマに?んなこた知らないよ)すごいラッキーですねー。(これは正解のはず)」
と、満面の笑顔で受け身を繰り広げていたら、もう一人ご近所の主婦の方が階段から降りて来たので、よっしゃこの話題をその人に引き継いだろうと思っていたら、
『協議ようやく始まったんですよ。』
と、これまた私に、軸線がぴたりと合った視線で話しかけて来ました。
(ウオー、なんじゃこりゃあ!自分って実はママ友扱いだったのかあ?)
と、フリーズしつつも頭の中で(協議?協議?)と、演算が猛スピードで始まってます。
『保険屋が入ってくれて、消防署って特別な保険に入ってるみたいで、、、』
「へー、フツーのじゃないんだ(何だよフツーのって)。」
『ええ、違うらしくって。それでいろいろ書類を出さなくちゃなんないから、これからちょっと実家、行ってくるんです。』
「実家で協議あるんだ(何を言っとるんだ、自分、解ってる?)」
『いや、実家で働いていることになってるから、書類作んなきゃなんなくて。』
「あー、そうなんだ。提出書類は漏れがあるとどうにもなんないからねえ(訳分かんないけど、絶対正解を言ってるはず)。」
と、紡いで紡いで、ようやく挨拶して和やかに締めることが出来ました。
いや、我ながら素晴らしい高得点でした。
導入からうろたえること無く落ち着いた滑り出しで、表現力も、話術的な技術点も、年齢相応のオッチャンモードのショートプログラムをこなしたと思います。
もうちょっと若い頃だったら、最初のステップあたりで動揺でアワアワして転倒していたことでしょう。
意外に伸びのある演技力は、我ながら褒めてやりたいと思いました。
でも、主婦の方ってかなりオープンマインド?
あるいはナベは、いつのまにかママ友レベル枠の、オッチャン扱いになってるのかなあ。