「ん~、おやおや~、君は誰だ?」
その職員は私の手元を見るなり、そう言いました。
私の手の中には、先ほどまで瀕死の状態で、息も絶え絶えだった小鳥が収まっています。
路上でうずくまっていたその鳥は、私が保護した時にはくちばしを開け、ちょうど犬が暑さでハアハアする時みたいに、息が荒く、羽ばたいて逃げる力もありませんでした。
雀でもないし、インコでもない。
とりあえず、とある動物園に電話して、保護をお願いしてみたところ、放鳥までお世話をしてくれるそうなので、連れて行くことにしました。
途中水分を与えながら、移動していたら幾分元気になってきて、到着した時点ではかなり暴れ出したんで、大丈夫そうではあったのですが、骨折とかしていたら処置出来ないので、大事をとって診てもらうことにしました。
ところが、これが意外な展開となってしまったのです。
最初の担当者に預けても、何の鳥か解らなかったので、もっと鳥に詳しい専門職員さんに来てもらい、見てもらったところその方は、じっと担当者さんの手元を見るなり、冷たく、
「ガビチョウ」
とひとこと言って、すぐに奥へ消えてしまいました。
「そうか、おまえはガビチョウかー!」
と、まわりの職員も、急に反応し出したんで、何のことかと思い、
「ガビチョウって何ですか」
と聞くと、
「特定外来生物というのがありまして、、、」
と、説明をし出しました。
要は日本古来の生物ではなく、なんらかのルートで日本に住み着き、もともとある自然形態を脅かす生物、動物のことで、これを飼育することは、条例で禁止されているとのことです。
「じゃあその鳥は、治療してもらえないんですか?」
と聞くと、
「治療は出来ません。それどころかもう処分の対象になってます。」
その職員は、なべが連れてきた、その小さな鳥を捕まえたまま離そうとせず、じっとナベの目を見てそういいました。
「え、じゃあわかりました。僕が飼います。」
「飼うことは出来ません。法律で罰せられる行為になりますし、またこのまま、どこかの山とかに放しても罰せられます。」
「えっ、それじゃあその鳥はどうなるんですか?」
思わず、声の高くなった私に対して、職員の方は淡々と、
「現時点で、このままウチで処分ということになりますね。」
後日談ですが、家に帰って「鳥 特定外来生物」で調べてみたところ、トップヒットで、例の” ガビチョウ ” が出てきました。
バブル期に中国から、観賞用として大量に輸入されてきた鳥でしたが、なりが地味なくせに、鳴き声がちょっと甲高いところから(元々は中国では、そのさえずりを楽しむために、飼育されていたものなんですが。。。)すぐに飽きられ、売れなくなって困った業者、または飼い主によって、山とかに放棄されたものが、日本に住み着いたみたいです。
ですが、生態系に対してどういう悪影響を及ぼしているか、となると
『生息数は少なく、生態系に影響を与えるほどではない』
要するに『不明』だそうです。
これですからね。
特に農作物を荒らすわけでもなく(スズメによる被害の方が大きいと思いますが)、生態系を崩すような捕食をするわけでもない(ムクドリとかとおなじような生活らしいです。ムクドリレベル)。
ですが、行政的には、とりあえず昔ここにいなかったから、よく解んないけども、なんかコトが起きる前に消してしまおう的な対応の仕方です。
浅はかなのかもしれませんが、生き物に対しての、日本人のこういう面はどうかと思います。
アフリカツメガエル(沼地、池などに生息し、古来種アメンボ、ヤゴ、タガメ、メダカなどを全滅させる)などの、 ” 生態系をひっくり返す ” ような勢いを持つ、凶悪な有害生物と、ムクドリ程度の ” 共存可能 ” な生物を、ひとまとめにして、何でもかんでも”処分”ですからねえ。
今回のお話は、ちょっとシリアスなお話になってしまいました。
でも実際、シュールな展開でした。
えっ、例のガビチョウですか?
まあ、流れ的には、そのまま処分ということですね。
ただ、僕は小さい生き物は好きですから、そういう時は、
「僕が持ち込んだから、僕が責任もって処分します』
と言いますし、動物園の人達も、個人的には考えはまた別でしょうから、もしそう強硬に言い張ったなら、返してくれると思います。
そのあとは、、、そうですね、別名『かご抜け鳥』ですから。
帰りのパーキングエリアあたりで、森に脱走したかもしれません。