いままで行ったことのない場所でした。
そこは沢山の家族連れで大賑わい。
場所は、広場というか芝の生える丘陵地のようでしたが、特にサクラとかの花が咲いてる訳でもなく、ただひたすら大勢の人々で、賑わっているようでした。
チビナベは、親に連れられて、ここで早くからお昼ご飯とかを食べていました。
遠くにちいさく見える、”それ”の近くには、太平洋の大海原があったように思います。
あるいは海に突き出た半島に、”それ”はあったのかも知れません。
ただ到着した時刻が結構早く、お天気は快晴で、気温もそう寒くはなかったのですが、子供のことですから、もうすっかり退屈してたような気がします。
ただすごい人の数が、芝生の丘にところ狭しと、ゴザやシートを敷いてたむろしていた、不思議な光景だったのは覚えています。
そうこうするうちに、遥か彼方の”それ”、突っ立っている銀色のペンシルみたいなのが、動いているような景色が見られました。
周囲はなんとなくザワめいています。
が、それも暫くすると全く止まってしまい、再び周囲の大人達もまたワイワイと話し始めました。
ちょっと前に父親から、
『じゅんいち、ロケット観に行こや!ロケット、ロケット!』
と、煽られていたような気もしますが、後付けの記憶かも知れません。
でもそこに来た目的は、子供心に理解していたような気がします。
ロケットがどんなもんかは、もちろん分かりません。
ですが犬と一緒で、親がはしゃいでいると、こちらも嬉しくなって興奮が伝染する心理でしょうか? ただでさえ娯楽に乏しい、昭和の田舎町での日々です。
ですから当日まで、ロケットを観に行くという一大イベントで、心ワクワクな幸せが続いていた気がします。
でも期待と反して、そのロケットという奴は、いつまで経っても、ただ斜めに突っ立っているだけで、面白くも何ともありません。
もうずっとそんな感じで、充分に飽きてきたので、もう帰ろう~帰ろう~、とでも言っていたと思います。
その時、親に注意喚起されたのでしょう、見ると一斉に丘の人々も、全てがはるか彼方の、その銀色のシャーペンに釘付けになった直後でした。
ズガアアアーーーン!!!
その銀色のエンピツは、自分の大きさの30倍程の、もうもうとした白煙をすざまじい勢いで一気に、まるで入道雲のごとく、周りに吹きだしながら、大音響とともに、青空に向かってまさに一直線!
信じられない早さで、突き刺さってゆきました。
いやそれは本当に、青天の霹靂とでも言いましょうか、もう4、5歳児の予想を越えた現実。
唖然呆然。
一体なんあんだアレは?? もうびっくりでした。
いやもうそれから寝ても覚めても、ロケットロケットです。
ねえー、またロケット見に行こう、行こう、と何万回親に言ったことか。
板ブロックで作るおもちゃも、この日からロケットです。
ただあの鋭い丸い尖った質感を、板で再現するのはなかなか難しかったのを覚えています。
どうしても三角屋根みたいになっちゃうんですが、あれだけ感動したロケットを、もう一度見たい!再現したい!
そのロケットが、なんと近くの田んぼにあったのには、大興奮しました。
その黄色いロケットは丸い円錐状で、向きこそ上下逆でしたから、空から戻ってきたのでしょうか。
ま、ちょっと雰囲気は違いますが、今にもまたズガーンと、あの時のように大空に飛び出しそうで、今度はいつ頃また飛び出すのかなあ~、とその田んぼを通るたびにウキウキして見ていた記憶があります。
でもそのロケットは、いつまでたってもあの日のように、空に向かってビックリするような大音響とともに飛び出すことはなく、静かにそこにいるだけです。
チビナベもいつしかロケット熱も冷め、小学校に上がる年齢になって、その田舎町を後にしました。
これはいつか前にも書いた記事です。
ですが最近郷里の方よりお便りを頂き、ご丁寧にもそのロケットを送って頂き、再びの投稿と相成りました。
これがまさにチビナベが、ワクワクして見ていたロケットです。
あれから40年以上、ロケットは今でもその場所で、大空に飛び出すことなく往年の勇姿のまま、ひっそりと佇んでいます。