2013-02-01

不審者

 こないだ深夜、家の近くで車を止めて、録音チェックをしていたら、不審車がスーッと横に来たかと思うと、何を思ったか、いきなりバックして、後ろに停車しました。

その泣く子も黙る、白と黒の車から降りてきたのは、やたら無線の声が肩口から漏れ聞こえるお巡りさんでした。

 

 一人は4、5年次くらいの先輩巡査。

もう一人は、高校生みたいな女の子の警察官でした。

『すいません。こんな夜遅くこちらで何をしてらっしゃるんですか?』

『ええ、今日の仕事の録音のチェックです。音が聞こえると近所に申し訳ないんで。』

『何のお仕事をされてるんですか?』

と、女の子はなかなかに、いろいろボクの事を知りたいみたいです。

 

 え〜っ、こんなとこでナンパですかあ?

とか言ったら怒られそうだったので、身の上をいちいち説明して、車の中も見たがるので見せてやりました。

そんなにボクの事知りたいんだー、なんてね。

 

 どうやらパトロールついでにその先輩が、その新入りの女の子に職務質問のやり方を練習させているような感じで、小声で、

『まずは免許証拝見だろ』

とか、

『そっちも開けなきゃ。』

とか指示しています。

なんか誰にでも最初ってありますが、ヒナにエサの食べ方を教えている親鳥みたいで微笑ましかったですね。

 

 でもそのひな鳥がちょっと問題でして。

一生懸命になりすぎて、結構愛車の中を、ひっくり返すようなすごい勢いで、見るのには閉口しました。

テレビのFBIとかの手入れじゃないんだからと、思わず、

『まあ練習なんでしょうけど。。』

とつぶやいたら、さすがに先輩巡査も気になったのか、

『おい、もうその辺でいいよ』

と、指示してくれました。

 

 最後にトランクチェックだったんですが、ここで凶器が出てきたんですね。

多分先輩ちゃんもお宝発見!と思ったと思います。

 

 それは泥まみれのスコップでした。

 

 『これはなんですか?』

ときたから、

『スコップです。』

と答えました。(見りゃ判るって)

 

 『どうしてこれをお持ちなんですか?』

ときたから、

『はねられたネコちゃんを埋める用に積んでます。』

と答えたから、さぞかし不審人物に見えたでしょうね。

先輩ちゃん、おおっ、これはイケるぞ!とお手柄確保寸前の面持ちで、

『どうもおっしゃっている意味が判りかねますが。普通そういうのは役所でやるもんでしょ。』

と、だんだん詰問口調になってきました。

 

 なので、説明タイム開始。 うー寒いのに。。。

『路上でね、可哀相なネコちゃんとかにね、よくね、遭遇するんですよ。車移動が多いもんで。で、そういうときどうします?』

『僕はそういう時は、なるべく端に寄せて、埋められそうなら埋めてあげるコトにしてるんですよ。』

『以前ね、交番の前で、タヌキが死んでてね。通りがかりの女の子とかも涙流してたんですがね。その時、交番でそういうのは受け付けられないって、冷たくいわれたもんでね。』

『そう、なんにもしてくれなかったものでね。それはどう思います?』

『それにまあ、お役所とか行政は夜中は動かないでしょ。お巡りさん、お願いしたらやってくれますか?してくれないでしょ。』

『いや別にそれはいいんですよ。どうせ管轄外っておっしゃるだろうし。』

『ただ自分は、もし遭遇したらこれも何かの縁でしょうから、出来る範囲で埋葬とかはしてあげようと思ってるんですー。ほら、泥ついてるでしょ。

こちらはネコちゃんを手で持って移動する用のビニールでー、こちらがお祓い用の粗塩でー、』

 

 愛車に積んでいる埋葬キットを、道に広げて。人に説明したのは初めてでしたね。

 

 お巡りさんもそんな人見たのは、初めてだったと思います。

まあ粗塩とかは珍しい積載物ではありますが、説明に即した、必要に応じたものなので、不審人物としての疑惑は晴れたようでした。

新米婦警ちゃんも、ちょっと唖然としていましたね。

さぞかし世の中へんな人が多いことがわかった、冬の夜だったでしょう。

 

 ようやく全ての疑いが晴れ、先輩の、

『どうもご協力ありがとうございました!』

で無事、新人ちゃんの初の(多分)深夜の職務質問は終了となりました。

いやー日本の警察も頑張ってくれてますね。

エライエライ。お二人どうも寒い中、大変大変おつかれさまでした。

 

 おつかれさまだったけれどね。 

新人ちゃん、あなた可愛い顔してますが、その実、かなりガサツですね。

お部屋、綺麗にしてますか?

 

 先輩ちゃんにはおかれましては、最後の、

『ちょっと変わってらっしゃいますね。』

との正直なるコメント。

自覚してますが、余計なお世話でございます。