オヤジ殿はその昔、トヨタ自動車に勤めておりました。
一貫してトヨタ関連なので、ウチの車は当然オールトヨタかと思いきや、ダイハツ、スズキとその時の気分で買い替えていました。
愛社精神は、さほどでもなかったようです。
子供の頃、オヤジ殿に連れられて、勤め先の花ヶ島のトヨタに行ったことがあります。
その日は休日で、ドライブがてらに、会社に野暮用で寄ったような感じでしたが、初めて入ってみた車の修理工場は、もう何ともいえない近代文明的な迫力でした。
子供でしたから判りませんでしたが、今見たらカーマニア垂涎ものの、レトロな車が沢山、ところ狭しと並べられていたんでしょう。
その日は日曜日ですから、ちらほら人がいる以外は無人の工場でした。
が、オヤジ殿はそこの人間なので、日直のおじさんにヨッ!と軽く挨拶をすると、工場内をあちこち見学させてくれました。
オヤジ殿の威光で、何も臆することなく、工場内を自由に散策することが出来、オヤジ殿がとてもかっこ良く見えましたね。
整然と並べられた工具の山、建物の奥深くまで無限に続く、天井にも届きそうなパーツ棚。
伝言板に綴られた謎の言葉の数々。
鉄板の上を歩くと、グワーングワーンと音が工場内に響き、子供心にとても面白く感じました。
ふと見ると、壁には
『今だ!見せろトヨタの低力!』
と大書してありました。
なんなんだろ?低い力?なんか専門用語かなあ?なんて思って、オヤジ殿に聞くと、
『なーに言うちょるか!よく見ろ!底力じゃろが!』
と笑われました。
『今だ!見せろトヨタの底力』
見間違えでした。
そんな明るい陽の光が差し込む、誰もいない工場内は、独特なオイルの匂いと、不思議に清廉とした空気の漂う、とても静かな異空間でした。
こないだ車検に落ちました。
万全のつもりでしたが、サスペンションのゴムブーツの破れを指摘され、再検査決定。
かなり悔しかったので、帰宅すると直ぐにジャッキアップし、下回りを覗いてみたところ、なんとか自力で部品交換が出来そうな感じです。
そうしていたら、ふと、懐かしいあの休日の工場、の匂いがしてきました。
あれからオヤジ殿は、20数年勤め上げ、トヨタを定年退職。
あの日のチビナベは、すっかりデカナベとなり、40年近くの月日が過ぎましたが、あの懐かしいオイルの匂いは、あの日のままでした。
人生いろんなことが詰まってますけど、実は一瞬の出来事なのかも知れませんね。
今年は春に悲しい災害に見舞われ、特に関係された方々には大変な一年となりました。
ここに改めでお悔やみとお見舞いを申し上げます。
そして来たる2012年は、上を向いて元気に歩ける一年になれば、と心より思います。
どうぞ皆さんよいお年を!!