2022-04-01

夢の風景

 今、ピアノに向かおうとして、引っ掛けないようゆっくりと、下に置いてある楽器たちを跨ぎました。

 

 いつもの風景。

レッスン部屋、録音スタジオ、あるいはまたライブ会場で、ごくごく当たり前に見る風景のヒトコマです。

 

 なんですが、ふと思って、その楽器群を眺めてみました。

これって、こうして楽器を触るようになる前は、カタログでしか見ることが出来なかった、夢の造形物、夢の輝き、夢の質感の風景だったんだよなあ。

 

 

 しみじみ思いましたね。

このテナーの、モリンと上にくねったネックの形。

スマートじゃない、この形!

この形があの渋い響きを出す、と考えたら、胃の辺りが妙に、キューっとそそられる変態形状。

 

 アルトサックス片手に、颯爽とエスカレーターを降りる草刈正雄が、反対側から袋一杯のオレンジを抱えて登って来るナベサダを見て、慌ててサックスを後ろ手に隠し、空いた片手で「やぁ、どうも」なんて握手する、ワンシーン。

 

 憧れのサックスを手にしている草刈正雄と、今日はオレンジを抱えた、いつでもサックスを吹ける身分のナベサダが、心から羨ましかった40年前のブラバスのCM。

アルトのビミョーな大きさに、これまたソソられたなあ。

 

 また、ヤマハでいちばん安いやつでいいから、天から降ってこないかな、と心底願った、シュッと真っ直ぐに伸びた超絶カッコいい、ソプラノサックスのあの縦笛感。

 

 今、皆さんわたしの足下に全部転がっています。

これってスゴくないですか?

あの頃、夢にまで見た楽器が全部、私の元にあるんです。

 

 知り合いのミュージシャンが

「もう自分達にとっては、楽器の憧れとかじゃなくて、単なる道具だよね。」

と、呟いたことがあります。

技を磨いてなんぼの演奏職人は、楽器のコンディションこそ最大限の注意は払えど、それを眺めて愛でることは今更しない、ということです。

 

 実際にそうです。

が、あの憧れの気持ちがふと、フラッシュバックしてきたこの瞬間は、滅多に出来ない貴重な体験だな、と思いましたね。

 

 習得の大変さなど全く知らない、ただただ単純なる憧れだけの気持ち。

とても単なる道具には思えない、眺めているだけで、吸い込まれるような気分。

 

 夢は叶える為にあり、だが夢は叶わなくても、そんな気持ちを忘れないだけで、実は充分に幸せなんだな、、と、ふと思いました。

 

 なので、そんな初心の幸せな気持ちを忘れないように、実は世界的ヴァイオリニストでもある僕は、こないだヤフオクで、念願のストラディヴァリウスのヴァイオリンを、一億円で落札し、先日初めてウィーンフィルと記念リサイタルを開いてきました。

 

 楽しかったです!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演奏会を終えて⭐️