2005-06-01

山道

 前回も密かなドライブの楽しみ方にお付き合いいただきましたが、今回は第2弾。

 

 これは、幼少のころのお話なんですが、わたしは幼稚園の途中まで、宮崎県の山間部の町に住んでいて、その後、宮崎市内に移りました。

 

 その関係上、たまに市内から山の町に、よくドライブで連れて行ってもらったのですが、その途中の山間部に、子供心に、強烈に強烈にソソる ”あるもの” があったんです。

 

 さてそれは、いったい何でしょう?。

ヒント1、物資を運搬するものです。   『山』と、このヒントで、なんとなくお分かりでしょうか。

 

 で、そのあたりに車が差しかかると、私が

『見たい!見たい!』と、いつも大騒ぎして、車を止めるものだから、オヤっさんは、いつしかそのあたりで

「ほら順ちゃん、飛行機!」

とか言って、注意をそらす作戦にでるようになりました。

 

 おわかりですか?

ではヒント2、林業に関係した施設です。

 

 はい、そろそろなんとなく分かってきました?

正式名称は分からなくても(私も知りません)ああ、もしかしてあれのことか、と思い浮かぶのではないでしょうか?

そう、それは川や谷間を超えて、伐採した木などを、向こう岸に運ぶ架空索道、すなわちケーブルカーのことです。

 

 私の大のお気に入りの、そのケーブルカーは、少し間隔をおいて2基ありました。

 

 一基はもうさびさびで、殆ど使われてないんじゃないかといった代物でしたが、突然道路脇に、何気なく登場するさり気なさと、日常で見ない不思議な形の巻取り機、ワイヤーを支える三角に組まれた支柱、反対岸の木々の間に、すっと消える2本のケーブルの風情など。

もうこれはまったく理由の分からない胸騒ぎ、マタタビに埋もれて失神!といった感覚です。

 

 もう1基などは、大部分が草に埋もれて、現役当時のままの状態で廃棄、放置してあるものですから、もうほんっとに、見るだけでドキドキものでした。

 

 人が使わなくなって久しいという、廃線跡だの、朽ち果てたケーブルだのって、見てると一気に、それらの栄華を極めた懐かしい輝かしい過去へと、気持ちがタイムスリップするようでした。

まだ最近生まれた子供なのに。

 

 確かに、そこにあった存在として現物が残っている。それに大興奮でした。行きはそんな感じです。

で、帰りはといいますと、これは夢うつつの中の残像として記憶にあります。

 

 それは、どんな山道でも、たいがい道脇に等間隔で配置してある、棒の先の小さな反射板。

ライトが当たると、それ自身が光っているかのように輝くあれです。

あれにも表情があるんです。

 

 山道での帰り、眠くなった目で外を眺めていますと、真っ暗な遠くの道に、車のライトに反応して、次々と白い(あるいはオレンジの)ポツポツが見えてきます。

 

 やがてそれは、急速に光を増し、かなり強烈に輝き出します。

でも通り過ぎる瞬間、輝く力を失って急に暗くなるんですね。

 

 その瞬間の反射板の、フっと陰る表情!

ここ、道の端だから気を付けて~と、元気に光っていた彼等が、通り過ぎようとする瞬間、

「・・・」

と急に元気をなくし、闇に帰るあたりが、いつまで見ていても、少し哀れでなんだか飽きなかったです~。

 

 前回のドライブのお話での、どんな暗闇でもどこかで見守ってもらってるような感じ、というのが子供心にグっときてたのかなあ~。

あの頭がまあるい形もいいよね~。

 

 助手席でうとうとしながら見ていた、そんな懐かしい風景。

大人になって、ドライバーになった今は、その感覚を味わえませんが、いつかまた助手席で、密かに楽しんでみたいなあ。

 

 そんな昔の思い出話でした。