2008-03-01

思い込み

 この時、ようやく足の下に何も無い、という状況が伝わってきました。

 

 いつも海上から滑走路に着陸する飛行機が、航路をそれ、山中に機首を向けた時に、異常事態の発生を予感しました。

墜落、という想像を絶する恐怖というものを、初めて感じた瞬間でした。

 

 機はさらにガコン、ガコンといった、異音とともに高度を下げています。いったいもうどれくらい空港から離れたでしょう。海の影は見当たりません。

機は山あいを迷走し、田園地帯に差しかかってきました。

 

 エンジン音は、墜落を逃れようと相変わらずキィーンと甲高い音をたてています。

ですが、すでに窓の下40メートルほど下の民家の瓦屋根が、飛ぶように後ろに流れていきます。

 

 どうやら飛行機は、前方に田んぼなどの不時着地を探しているようです。

ですが肝心のエンジンが、もはや機を持ち上げられなくなってきています。

 

 『飛行機が、快適に飛び続けるには、ある一定の速度が必要であり、飛行機がその速度を切った瞬間、突如この失速というのが、おとずれるのである。この失速というのは、コントロールのきかない墜落であり、不時着とはまったく違うのである。』 (坂井三郎・大空のサムライより)

ということは、浮力を失った瞬間、飛行機は失速 ⇒ 墜落してしまうことになります。

 

 機はしばらく、なんとか持ちこたえているようでした。

ですが、突如、ウイーンというモーター音とともに、主翼からフラップが伸びてきました。

 

 もう、浮力を維持する事が出来ず、フラップ一杯に揚力を得ようとしているようです。

車輪は出ていないようなので、いよいよ不時着。しかも危険な胴体着陸が迫ってきました。

 

 自然に足の指に力が入ってきました。下の地面が極度に迫ってきています。もう高度は15メートルほどでしょうか。おぞましいほどの接近の仕方です。

エンジンはもうパワーを出せていないようです。

相変わらず、変なガクン、ガコンといった下がり方で、飛行機は10メートル、7メートル、5メートル。

 

 といきなり、ここで真っ白な、滑走路のアスファルトが窓の下に一気に広がりました。

オオッ!!と思っていると、ドーンといった着陸時の軽い衝撃、ゴロゴロゴローという車輪の響き。

直後に、グオオオ~とエンジンのパワフルな逆噴射による、マイナスGが体にかかってきました。

飛行機は、宮崎空港の山側から着陸したのです。

 

 どうやら、どこの空港も風向きで、飛行機の離着陸の向きが、変わるらしいです(その日乗ったタクシーの運ちゃん談)。

 

 宮崎空港は、私が帰る時はなぜか、いつも海からばっかりで、滑走路も海側に延び、おやじさんの恐怖の着陸逸話もあるので、渡辺家では宮崎空港は、必ず海方向と思いこんでたんです。

 

 いやあ知らんかったですわ。例のゴンゴンという異音も、実はあれが車輪を出す音だったらしく、機は正常にいつもの着陸手順を踏んでいただけだったんですな。

機がふらついたり、失速するような感じがしたのは、一人で勝手に墜落モードに入っていたせいで、そう感じただけであり、正常な着陸前の降下飛行だったようです。

エンジンがパワーがなくなっていたのはパワーを絞っていただけで、それらすべてを墜落じゃ-!と考えてしまう、この妄想力。

 

 これこそ、大したもんだと思いました。

 

 でも乗っていた時に感じた、あの墜落の恐怖!

あれはマジでリアルに、すごい超こわい!!

浅草花やしきのジェットコースター(マニアック~)が、きゃー!、なら、全日本空輸のこれは、

ウワアアー!助けてくれ~!メーデー!です。

 

 近年まれに見る、超絶ド迫力体験でした。飛行機に乗ってるだけなのに。

でも、ハッキリ言って楽しめました。

 

 思い込みとは、人生を楽しむ秘訣なり。 じゅんいち

 

 、 、 、違うか。