若い頃はこわいもの知らずで、とんでもないことを、やらかしてしまったりするものですが、わたしの場合、もう二度とやれない、やらないだろうという、大阪までの自転車旅をした事があります。
まあ日本一周する方とか、たくさんいらっしゃいますから、世の中広いんですが、わたしは二度とやろうとは思いませんね。
確かあれは、20才ぐらいの時でした。
年末だったので、帰省しようと思ったのです。
まあ、ヒマだったんでしょうね。
特になんの考えもなしに、自転車に寝袋と着替えを積んで、足取りも軽やかに、東京の調布からフラッと出かけました。
” 風を感じながら自転車で旅をすると、本当の自由を感じられるだろうなあ” などと、メルヘンなことを、ふと思ったからです。
(ちなみに大自然もとても自由ですから、雨も降るし、雪も降る。そして自転車を漕ぐ人は、電動ではありません。)
山岳列島日本を、甘くみてました。
初日の箱根越えで、大いにシマッタと思いました。
最初は、オレはこの坂をチャリを降りずに登りきってみせる!と勇ましく心に誓いをたててましたが、すぐちょっとタンマ、今の誓いナシ!と思いました。
なんなんですか、あの山は。
でかいし、高い。
3時間も4時間もかけて、ようやく中腹の、由緒ありそうな温泉街みたいなとこに、辿り着いた時は恥ずかしかった。
普通、車かバイクか電車で、スマートに遊びにくるようなトコに、黒のポリ袋2つをゆわえた自転車を、死にそうになりながら、ヘーこら押してる姿ってのは、なんか我ながら哀れを誘います。
あらあ、何を勘違いして、こんなトコまで自転車で来ちゃったのかしら、あの男のコは、みたいに、まず見られていたでしょうね。
結局、日が暮れても登りきれず、夜10時ぐらいにようやく山頂近くのレストランに辿り着きました。
でもカネがないので、一番安いシャケ定食みたいなのを頼んで(それでも1000円以上した)、閉店間際だったので食ったらすぐ追い出されて、電気がパッと消えるわけですよ。
従業員はすぐブロロ~ンと車で帰ってしまったし、何もない山の中にポツンとただ一人。
帰る家があるってのはいいなあ、とその時はつくづく思いました。
夜に帰る家がないのはさみしいなあ、と思いました。
で、どうしたかというと、その日はそれ以上というか、そこのドライブインを逃したら、この先の道のりで夜露を凌ぐ場所の確保に、非常な不安を感じたので、気も萎えたし一階のパーキングのすみっこに、寝袋を敷いて潜り込みました。
初ルンペン体験!ダンボーラーデビュー!ドキドキしましたね。
でももっとビックリしたのは、いつしか寝入って、ふと、ごう音に叩き起こされた時でした。
グワオ~ウ、ギョオオ~!!! ブワワワ〜〜〜!!!!
すごい音!
度肝を抜かれました。
こわいから、寝袋からちらっと目をだすと、回りは一面マッシロ!
ギョっとして顔を出して、辺りを見てみると、まあ山の天気は変わりやすいといいますが、さっきまでの星空がウソのよう、すでに私は雲の中にいました。
雲の下で、雨に濡れるのとは違って、雲の中では濡れないかわりに、ひたすら末恐ろしいばかりの、突風とごう音の世界。
下手に、山の雲に入ると、飛行機が落ちるのも無理はない、と思いました。
いやあ、すごい体験をしました。
箱根の山の神が ”おい、若いの。ワシをあまく見るなよ” とばかりに、手荒く歓迎してくれたようです。
ですが、一夜明けるとそれがウソのように、お天気はスカポーンと晴れ渡っておりました。
おかげで、その先の道中においての、気の引き締めができて良かったです。
全日程、のべ五日のうちの第一日目が、ここから始まりました。