2004-09-15

東京 → 箱根

 若い頃はこわいもの知らずで、とんでもないことを、やらかしてしまったりするものですが、わたしの場合、もう二度とやれない、やらないだろうという、大阪までの自転車旅をした事があります。

 

 まあ日本一周する方とか、たくさんいらっしゃいますから、世の中広いんですが、わたしは二度とやろうとは思いませんね。

確かあれは、20才ぐらいの時でした。

年末だったので、帰省しようと思ったのです。

 

 まあ、ヒマだったんでしょうね。

特になんの考えもなしに、自転車に寝袋と着替えを積んで、足取りも軽やかに、東京の調布からフラッと出かけました。

” 風を感じながら自転車で旅をすると、本当の自由を感じられるだろうなあ”  などと、メルヘンなことを、ふと思ったからです。

(ちなみに大自然もとても自由ですから、雨も降るし、雪も降る。そして自転車を漕ぐ人は、電動ではありません。)

 

 山岳列島日本を、甘くみてました。

初日の箱根越えで、大いにシマッタと思いました。

最初は、オレはこの坂をチャリを降りずに登りきってみせる!と勇ましく心に誓いをたててましたが、すぐちょっとタンマ、今の誓いナシ!と思いました。

 

 なんなんですか、あの山は。

でかいし、高い。

3時間も4時間もかけて、ようやく中腹の、由緒ありそうな温泉街みたいなとこに、辿り着いた時は恥ずかしかった。

 

 普通、車かバイクか電車で、スマートに遊びにくるようなトコに、黒のポリ袋2つをゆわえた自転車を、死にそうになりながら、ヘーこら押してる姿ってのは、なんか我ながら哀れを誘います。

あらあ、何を勘違いして、こんなトコまで自転車で来ちゃったのかしら、あの男のコは、みたいに、まず見られていたでしょうね。

 

 結局、日が暮れても登りきれず、夜10時ぐらいにようやく山頂近くのレストランに辿り着きました。

でもカネがないので、一番安いシャケ定食みたいなのを頼んで(それでも1000円以上した)、閉店間際だったので食ったらすぐ追い出されて、電気がパッと消えるわけですよ。

従業員はすぐブロロ~ンと車で帰ってしまったし、何もない山の中にポツンとただ一人。

 

 帰る家があるってのはいいなあ、とその時はつくづく思いました。

夜に帰る家がないのはさみしいなあ、と思いました。

 

 で、どうしたかというと、その日はそれ以上というか、そこのドライブインを逃したら、この先の道のりで夜露を凌ぐ場所の確保に、非常な不安を感じたので、気も萎えたし一階のパーキングのすみっこに、寝袋を敷いて潜り込みました。

 

 初ルンペン体験!ダンボーラーデビュー!ドキドキしましたね。

でももっとビックリしたのは、いつしか寝入って、ふと、ごう音に叩き起こされた時でした。

 

 グワオ~ウ、ギョオオ~!!!  ブワワワ〜〜〜!!!!

 

 すごい音!

度肝を抜かれました。

こわいから、寝袋からちらっと目をだすと、回りは一面マッシロ!

ギョっとして顔を出して、辺りを見てみると、まあ山の天気は変わりやすいといいますが、さっきまでの星空がウソのよう、すでに私は雲の中にいました。

 

 雲の下で、雨に濡れるのとは違って、雲の中では濡れないかわりに、ひたすら末恐ろしいばかりの、突風とごう音の世界。

下手に、山の雲に入ると、飛行機が落ちるのも無理はない、と思いました。

 

 いやあ、すごい体験をしました。

箱根の山の神が ”おい、若いの。ワシをあまく見るなよ” とばかりに、手荒く歓迎してくれたようです。

ですが、一夜明けるとそれがウソのように、お天気はスカポーンと晴れ渡っておりました。

 

 おかげで、その先の道中においての、気の引き締めができて良かったです。

全日程、のべ五日のうちの第一日目が、ここから始まりました。