2006-09-15

海沿いの集落

 なんだか今年の夏は、暑さがあんまし迫力なく終わってしまった感じで淋しいです。

みなさん、なにかいい夏の思い出はできましたか?

 

 今回は『懐かしい夏休みの思い出』プチ恐怖体験編です。

ただし、実話、かつ描写がリアルですので、怖いのが苦手な方は、本当にスルーしてください。

ただし、のどかな村にも、少なからず闇の部分があった、その一端に触れるという意味では、語り継がれることも、或いは供養になるのかと。

 

 わたしの母方の田舎が海沿いの集落で、子供のころ、夏休みによく泊まりに行っておりました。

海も山も近いので、山では虫とり、海では素潜りと、田舎遊びを満喫していたんですが、ある日の朝、妹を連れて近くの島に遊びに行きました。

 

 島といっても、それは地続きの島で、山腹に無人の灯台のある、せいぜい標高80メートルくらいの、こじんまりとした島です。

でも一周するとそこそこ時間がかかるので、妹の手を引いて、テコテコのんびり散歩しておりました。

 

 島の裾まわりは、日南海岸特有の「鬼の洗濯岩」と呼ばれる波状岩が、ダイナミックな層を織り成しています。

そこでは、オカヤドカリやイソギンチャク、大小さまざまなエビやカニ、ウニやヒトデといった海生生物を手にとったり眺めたり、時の経つのも忘れるほど、楽しいものでした。

 

 しばらくそうして磯で遊んで、今度は島の裏手にでました。

そこには山腹の灯台に登るそま道が、薮にまぎれて上の方に延びていたので、登ってみることにしました。

 

 夏の日のことですので、灯台に着く頃には、自分も妹もかなり汗だくになってましたが、吹き付けてくる海風は、とても心地のよいものです。

灯台は、思っていたより小振りで、物心着いた頃から慣れ親しんだ、灯台の灯からは、その大きさは意外でした。

 

 で、山道はその灯台で終点なので、また下に降りていったのですが、山道の裾の方に小さなほったて小屋があるのが、目に入りました。

実は登りの時も見えてはいたのですが、上っている時は内部がみえず、なにか農機具の倉庫かなと思っていたのです。

 

 で、下りの時には中が見えたので、フト覗いてみるとペイントで

『~~のアトリエ』

と書かれた表札というか、看板というか、手作りの板みたいなのがぶら下がっていました。

 

 (ふ~ん、なんやろ)と思って、ちょっと中に入って見てみましたが、中は木の板とか、カビの生えたガラス戸とかで、し~んとしています。

 

 その時に、ハッと思い出したんです。

田舎のばあちゃんから聞いていた、この島の、ある話を。

 

 その昔、まだ私が赤ちゃんぐらいの頃、ある若い画家志望の青年が、この島の麓でアトリエを開きました。

 

 なぜ、その人がこの何の変哲もない、人の来ない島でアトリエを作ったのか。

今となっては永遠の謎ですが、私が思うに、彼はとても純粋な人だったのではないか、と思います。

 

 きっと自然を相手に日々過ごすことで、心の平安を保とうとしたのではないかと。

人間相手に、タフに現世を生きていくには、ナイーヴすぎるタイプのひとだったのじゃないかなあ、と思います。

 

 話は断片でしか聞いてないので、詳しい事情は、今や想像するしかありません。

が、とにかくその人はしばらくの間、この小さな自分だけのアトリエで、ひとり気ままにこころに浮かぶ風景などを、カンバスに描いていました。

きっと、その小さいアトリエでの月日というのは、短いながらも、彼には幸せな時間だったんじゃないかな、と思います。

 

 そうしてある日、その人は、そのアトリエで首を吊って、死んでいるのが発見されました。

 

 

 妹の手をひいて、ハタとその話を思い出したその時は、さすがに内心、

 

(わ~~っ!!!こ、ここは首吊りの現場や!!)

 

と、叫び出して、走り出したい衝動にかられました。

 

 が、それも恐いので、何も知らない妹に、

「さ、かえろか!」

と、わざと元気な声をかけて、逃げ出したい気持ちをググッと押さえて、帰途につきました。

 

 でもその帰りが、特にその小屋を後にして、10メートルぐらいのところが、泣きそうなくらい恐かった。

もちろん考えすぎでしょうが、

(もっと、ゆっくりしていって、、)

と、何かに、まとわりつかれているような気持ちになり。。。

 

 

 そう言えば、先述の灯台。

後日、近所のおじさんの話によると、あそこでも、首吊りが数件あった、そうです。

 

 『おじちゃんが子供んころよ。人が首つっちょる、て話が来てよ。

昔んことじゃったから、わざわざ見に行ったとよ。警察が来る前に。

で、登ったらよ。もう、そん時ぁ、もう2、3日経っちょったふうじゃったがね。

男んひとよ。カーって目を剥いて、、』

 

 何でも、地元の人ではないらしい。

(あそこで死ぬ人は、どっか知らんとこから来る人たちばっかりよ。地元ん人はおらん。)

 

 ばっかり? そんなに?

さらりと、こともなげに呟いたおじさんの言葉が、かえってある種の凄みを感じました。

 

 世を儚んだ人たちを、なぜか呼び寄せてしまう謎の島と、そこに共存し、日々生活を送る集落の人たち。

平和な田舎町にも、過去にはそんな事件があったんだな、と、今は冷静に、そう思います。

 

 以上が、私のなつかしい夏休みの思い出です。

そう、その時はとっても怖かったですが、今思うと、そのアトリエのあった場所は、木漏れ日が透き通る、平穏な空気につつまれていたような気がします。

 

 だから想像するに、亡くなられた方には、あの地での最期は、あるいは幸せな短い人生だったのではないかと。

 

 

 そう思えるくらいに、なごやかな朝のひとときでした。