2008-01-15

消えたトンネル

 2両編成のローカル列車は、三股駅に到着しました。

車内は割に満席状態でしたが、駅で降りた乗客は私ひとりでした。

 

 盆地に位置するこの土地は、まわりをぐるっと山に囲まれていて、快晴のこの日は青い山並みと、白い夏の雲が、夏の日差しに美しく映えています。

 

 降りると、電車はすぐ発車し、夏の陽光の中に、私はひとり取り残されました。

あたりをぐるりと見渡してみても、人は一人もいません。

プラットフォームは、割合手入れがされているようですが、ペンペン草がちらほらと生い茂っていて、無人駅の哀愁がなんとはなく漂っております。

 

 40年前には、貨物取り扱い駅として、大いに賑わったこの三股駅は、今では草ぼうぼうの広い敷地に、その面影を偲ぶことができるのみです。

 

 駅を出てみると、さびれた駅前ロータリーにも、やはり人はひとりとしていません。

駅前からのびる道の両側には、商店が一軒と、大衆食堂兼旅館の『一富士』がありました。

 

 が、両方とも営業を廃止して数十年は経つのでしょう。

普通なら、駅前の一等地なのにシャッターはさびれ、ひさしは破れはててボロボロの状態です。

 

 本当にあたりに人気がまったくないのが、とても不思議で、まるで人のいなくなった世界に迷い込んだ気分でした。

そうやってぼんやりしているうちにも、体はジリジリと熱くなってきます。

 

 帽子が家になかったので、傘を持参したのですが、宮崎の日射しは油断ならないので、用心して早速傘を差して歩くことにしました。

ファッション的にはイマイチで納得いきませんが、アヤしい格好の人ってどこ行ってもいるので、今日はそんな人のフリすればいいかあ、なんて思いながら、目的地の塚原団地方向にトコトコ歩いていきました。

 

 昼間に見る、思い出の塚原団地は、以外にもこざっぱりとしたさびれ具合でした。

前回の訪問は、深夜だったので闇に浮かび上がる廃墟群が、とてもナイスな怨霊っぽさを醸し出していて、あろうことか夏の夜の、恐怖のふるさと訪問となってしまったのですが、こうして昼間来てみると、団地群は人が住んでいないというだけで、沢山ある空き家はある程度ちゃんと、戸締まりおよび手入れがなされていました。

 

 女の子に突き飛ばされて骨折したゴミ焼き場跡も、ちゃんとゴミ用のケージが設置されていて、今でも居住者用に(全戸数の5パーセントくらいはまだ住んでらっしゃるようです)利用されているみたいです。

 

 こぎれいに手入れされたお庭のある家からは、ガンガンのロケンロールが流れていて、以外にも残っている人達は、隣近所に気を遣わなくていい、塚原団地廃墟生活を楽しんでいるみたいです。

 

 いよいよなつかしの我が家に到着しました。

前回は明かりのない深夜、怨念感が漂いまくってる中での訪問だったので、場所が全く確定できなかったのですが、今回は号棟をちゃんと確認して来たので、すぐわかりました。

 

 三股24号。古い我が家です。

 

 すでに空き家になって久しいらしく、釘で打ち付けられている戸板のくたびれ具合が、その歳月を物語っています。

どうにかして中をのぞいてみたいのですが、戸板はビクともしません。

ただ古くなった木目の穴から、なんとか中をのぞく事ができたので、持って来たデジカメで穴に向かって激写しまくりました。

 

 昔懐かしい、中の様子は割に綺麗でした。

口を歪めながら小さな穴を覘いていると、幼い頃、家族で過ごしたセピア色の時間が、心のなかになんとなく蘇ってきます。

 

 40年前への時間旅行。

はい、ささやかな幸せの時間でした。

 

 ただ、誰かにこの様子を見られたら、雨戸にへばりつく不審人物がいる、ということで宮崎県警にしょっぴかれてしまうので、あたりを見回しては雨戸にへばりつき、サッと離れては又上から下からのぞきまくる、と不審な行動をしばらく繰り返しました。

 

 そうやって夢中になっていると、急激にお腹が空いてきました。

計画では、三股でどっかのファミレスで、腹ごしらえをするつもりだったのですが、すでにその計画はあっさりナシになりました。

 

 そんなものはどこにもナイです。コンビニもない。

ので、とりあえず休憩用に、南宮崎駅で買っていたウィンナー入りちくわを、仮の昼食代わりにして、しばらく休憩です。

 

 いや、ホント人がおらんですわ。

さっきミニバイクのお姉ちゃんとすれ違ったのが、久しぶり3時間ぶりの人との遭遇で向こうも向こうで、アラ、こんなトコに人がいるわ、みたいな不審な目をしてました。

 

 ほんと、人がいなくなったんですねえ、この集落は。

昔は賑わっていたのに。栄枯盛衰、今は昔、といった感じの思い出の場所です。

 

 そういえば、ふとここで、先ほどの消えたトンネルのことを思い出しました。

 

 どうしてなかったんだろう。

 

 ここからも、鉄橋を越えていく電車は見えるのですが、橋を渡り終えてスグのところに、見えていたトンネルはどうしても見当たりません。

この謎をそのままにしておくと、また寝られなくなるので、かなりヘトヘトでしたが頑張って、これまた思い出の川に向かう事にしました。

 

 そして遂に、そこで消えたトンネルの謎が解明されたのです。(おおげさ?)続く。。。。