夜の塚原団地は、とても不気味な静寂に包まれていました。
でも、なべ姉弟にとって、それらの風景は全て、人生のルーツに直結しているので、そんなお化けの出そうな廃屋群でも、怖さなど全く感じず、ひたすら懐かしさだけに浸っています。
でも甥っ子姪っ子は、恐怖のどん底です。
『ねえ、じゅんいち、もう行こうよお。」
二人で後ろの席で、ぶつぶつ言ってます。
「ん、じゃあ、姉ちゃん、山王原(さんのうばる)児童館に寄って帰ろうか。」
姉「あ、いいね」
甥っ子姪っ子「うん、そうしよ!!」
二人は、山王原児童館とは何なのか、訳もわからず、ただこの不気味エリアから脱出できる事で、大賛成してくれました。
昔、僅かな期間通った幼稚園。
山王原児童館は、塚原団地からは、歩いて5分なので、車ですぐ着きました。
山王原児童館はどうやら健在で、多少リニューアルされて、今でも使用されている様子です。
ただ昔、山王原児童館ヘの行き帰りの時に、気になっていた正体不明の小道があり、その道は、児童館の前から伸びていました。
なぜ正体不明なのかというと、その道は、鬱蒼とした木々に挟まれ、昼でもなぜか妙に薄暗く、道の先は、薄暗がりに溶け込み、さらにはその道を歩く人を、子供の頃全く見たことがない、という、これまた不気味な記憶があるからでした。
ヘッドライトに照らされ、暗闇に不気味に口を開けるその道を見ながら、
「そうそう、姉ちゃん、この道。これ、いったいどこに続いちょるっちゃろねー。昔からナゾやったっちゃが。」
宮崎弁で、あねさんに一言ポツリと言うと、後ろで一斉に、
「え~~~!!!やだやだやだ。ぜったいい行かない。ねえ、やめようよー!」
と大ブーイング。
残念ながらナゾはナゾのまま、三股の夜空に隠れてしまいました。
「じゃ、最後にもいっかい団地ちょこっと見て帰ろうか。」
というと
「え~~!また行くの~?」
そんなこんなで、団地脇を通っていると今度は、あねさんが
「そういえば昔、おかあさんと順一と川であそんだがねー」
と言ったので、
「じゃ、車で、できるだけ接近してみようか?」
と言うと、子供達は
「もうやだ~」
ときましたが、今度は姉ママの提案なので、我慢しているみたいです。
川の思い出は、わたしには全くないのですが、どうやら、ご近所さんたちと連れ立っての川遊びだったようです。
姉貴さまは、その時のピクニックが、とってもとっても楽しかったらしく、それを強烈に記憶しているみたいです。
なので、できるだけその楽しい思い出に浸ってもらおうと、頑張って川近くの農道を、果敢に分け入っていきました。
でも、宮崎の自然環境は、基本的に放任主義なので、人の手の入りにくい川沿いの小道は、もうほとんどジャングルです。
アフリカの大地を分け入る、キャラバン隊みたいな様相を呈してきました。
はっきり言って、5メートル先の地面の状態がどうなのかは、枯れ草が積っていて、ヘッドライトの光だけでは、そこが固い土なのか、あるいは沼地なのか田んぼなのか、はたまた実は、あと少しで川に転落するのかいっさい判りません。
やばい空気の中、会話が一切なくなった大人二人を見て、うしろは大パニック。
「じゅんいちってば、帰ろう、もうホントにやだ~!」
しかも、今度はあねさんまでが
「ねえ、もう帰ろうよ~。」
といってきたので、今回はこれにて終了することにしました。
帰りは、新しくできたバイパスは使わず、懐かしい旧道を辿って一路、我が家に帰りました。
途中、思い出のケーブルカーとか、古くなって使われなくなったトンネルとか、まだまだ見てみたい思い出スポットは、たくさんあったのですが、それやると子供達に嫌われそうだったので、今度一人の時に、こそっと見に行く事にしました。
帰りは、交通量の極端に少ない山の中に車を止めて、甥っ子姪っ子たちと、やまびこ実験をして遊びました。
何年ぶりでしょうか、久しぶりに大声だして
『ヤッッホーーー!!』
叫びましたね。
そして耳を澄ますと、ホントに山の向こうで、かすかーに
「ヤッホー」
と言っておりましたよ。
なんだか山の向こうに、お友達がいるようで楽しかったです。
散々なミステリーツアーに巻き込まれた、甥っ子姪っ子ですが、幸い彼らには嫌われずにすんだみたいです。
ふたりはそれからも、いろいろとよくしてくれ、ある重要機密情報まで教えてくれました。
「ねえ、じゅんいちー。パルキアとディアルガってホントはどっちが強いか知ってる?」
なべ「ううん、知らない。」
「実はパルキアの方がホントは強いんだよ。」
なべ「ふ~ん、、そうやったんや。」
「小さい時はディアルガなの、でもね、でもね確実に、パルキアの方が絶対強くなるんだよ。」
なべ「??? そーかー。」
そのあと、使い方の判らないDSを、わざわざ貸してくれて、パルキアの必殺技の出し方まで、懇切丁寧に教えてくれました。
ありがとね。こんどお小遣いあげるねー。