2012-10-15

夜会

 「熱心だねー。ほんとえらいねー。」 

 

 深夜、誰もいないはずの暗い路上。

背後から、低いしゃがれた女性の声で急にホメられたら、喜んでいいのか、ビックリしていいのか、怯えたらいいのか。

訳がわかんないですね。

 

 バイクのエンジンを分解して早10ヶ月、なかなかセッティングが出ません。

セッティングとは要するに調整のことなんですが、素人修理は常に、暗中模索の日々です。

 

 この日も、ライヴ明けに朝っぱらから分解修理を始め、深夜に及んでなお、路上の案内板の明るいところで修理をしておりましたら、見ず知らずの初老の女性にいつの間にか、スッと後ろに回られ、ジッと見物されていたようです。

 

 『ああ、こんばんはー。」

と間抜けな返事をし、そのまま作業を続けておりましたが、その女の人は縁石に腰を下ろし、茶飲み体制に入りました。

 

 「おにいさん、よくここで見るわよねー。いっつも感心してるの。」

『いやあ、そんなことないっす。』

「バイクが好きなの?」

『はい、古いんでよく修理してるんですよ。』

「えらいわねえ、うちこめるものがあって。」

 

 何言ってもホメてくれます。

「ウチの息子も40越えて自転車にハマッちゃっててね。こないだなんか箱根行くって自転車で行っちゃったの。」

『へえー、それはすごいですね。』

「もういい年なんだから無理するなって言っても聞かないのよ。」

『いやいや、健康的でいいですよ。』

「えらいわねえ、全部自分で修理してるんでしょ。」

 

 

 なんか話がループし始めました。

もしやこの方、酔っ払いの御方?

「私も若いときは、バイク乗ってて阪神高速で、一日2回も捕まったことがあるのよ。」(ふーん、関西か)

「えらいわねえ、いっつも感心してるの。よくそこまで打ち込んでるなって。」

 

 バイク修理は、ところ構わずやりますので、よく物珍しさに、いろんな人に話しかけられますが、酔っぱらいの方に和まれたのは初めてです。

 

 この時は集中を要する修理ではなかったので、すでに作業は終わっていたのですが、お話が息子さんの箱根話の2巡目に、機嫌良く突入したので、適当に作業しながらお付き合いしました。

 

 「打ち込めるものがあるのが一番!」

「出身が西宮だから阪神高速で2回も捕まったのよ」

「こないだなんか、集会があるから熱海に自転車で行くって、行ってきたみたいよ」

「えらいわねえ、いつも熱心にやってるでしょ」

 

 概ね、このような内容だったでしょうか、4周ぐらいしました。

 

 まあ秋の夜長は冷えるので、そろそろという辺りで

『お姉さん。出来た!』

と宣言したら、その方はよっこいしょとばかりに立ち上がって、じゃね、と一言。

そのままスタスタと夜の闇に、その方は消えてゆかれました。

 

 まあなんてことはない、秋の夜の一夜話ですが。

見ず知らずの方と和んで、お話しするのも変なテンション感があって、ちょっと不思議な感じがしました。

まあいつかの高速パーキングみたいに2時間粘られたら、かなりへばりますが。

 

 でも個人的には、夜の夜中に、見ず知らずの酔っ払いのお人とつれづれ話。

いい時間でした。

 

 というわけで、皆様も短い秋をぜひ楽しんでみてください。