「熱心だねー。ほんとえらいねー。」
深夜、誰もいないはずの暗い路上。
背後から、低いしゃがれた女性の声で急にホメられたら、喜んでいいのか、ビックリしていいのか、怯えたらいいのか。
訳がわかんないですね。
バイクのエンジンを分解して早10ヶ月、なかなかセッティングが出ません。
セッティングとは要するに調整のことなんですが、素人修理は常に、暗中模索の日々です。
この日も、ライヴ明けに朝っぱらから分解修理を始め、深夜に及んでなお、路上の案内板の明るいところで修理をしておりましたら、見ず知らずの初老の女性にいつの間にか、スッと後ろに回られ、ジッと見物されていたようです。
『ああ、こんばんはー。」
と間抜けな返事をし、そのまま作業を続けておりましたが、その女の人は縁石に腰を下ろし、茶飲み体制に入りました。
「おにいさん、よくここで見るわよねー。いっつも感心してるの。」
『いやあ、そんなことないっす。』
「バイクが好きなの?」
『はい、古いんでよく修理してるんですよ。』
「えらいわねえ、うちこめるものがあって。」
何言ってもホメてくれます。
「ウチの息子も40越えて自転車にハマッちゃっててね。こないだなんか箱根行くって自転車で行っちゃったの。」
『へえー、それはすごいですね。』
「もういい年なんだから無理するなって言っても聞かないのよ。」
『いやいや、健康的でいいですよ。』
「えらいわねえ、全部自分で修理してるんでしょ。」
なんか話がループし始めました。
もしやこの方、酔っ払いの御方?
「私も若いときは、バイク乗ってて阪神高速で、一日2回も捕まったことがあるのよ。」(ふーん、関西か)
「えらいわねえ、いっつも感心してるの。よくそこまで打ち込んでるなって。」
バイク修理は、ところ構わずやりますので、よく物珍しさに、いろんな人に話しかけられますが、酔っぱらいの方に和まれたのは初めてです。
この時は集中を要する修理ではなかったので、すでに作業は終わっていたのですが、お話が息子さんの箱根話の2巡目に、機嫌良く突入したので、適当に作業しながらお付き合いしました。
「打ち込めるものがあるのが一番!」
「出身が西宮だから阪神高速で2回も捕まったのよ」
「こないだなんか、集会があるから熱海に自転車で行くって、行ってきたみたいよ」
「えらいわねえ、いつも熱心にやってるでしょ」
概ね、このような内容だったでしょうか、4周ぐらいしました。
まあ秋の夜長は冷えるので、そろそろという辺りで
『お姉さん。出来た!』
と宣言したら、その方はよっこいしょとばかりに立ち上がって、じゃね、と一言。
そのままスタスタと夜の闇に、その方は消えてゆかれました。
まあなんてことはない、秋の夜の一夜話ですが。
見ず知らずの方と和んで、お話しするのも変なテンション感があって、ちょっと不思議な感じがしました。
まあいつかの高速パーキングみたいに2時間粘られたら、かなりへばりますが。
でも個人的には、夜の夜中に、見ず知らずの酔っ払いのお人とつれづれ話。
いい時間でした。
というわけで、皆様も短い秋をぜひ楽しんでみてください。