2017-03-15

20代の音

 昔、聞いたテープ。

山ほどあるのですが、それを聞くデッキが既にないがために、アナクロな保存データとして部屋の一角を大量占拠している、埃をかむったテープたち。

 

 昔は、バイト代を貯めて安く手に入れた、AIWAのカセットコンポで(ソッコー壊れていたなあ)何度も繰り返し繰り返し聞いては、音の世界、というものを堪能して、それだけで十分にリッチな気分に浸れていた、幸せなスローな時代。

クルマに大量の極選テープを車載して、よくドライブに出掛けたもんです。

 

 でも今やボタンポチッで、アイポッドやらICレコーダーやらで、いつでも極上の音楽を買ったり聴いたりできるようになった現代。

そんな平成の世に生き残った、我が1980年式のオールドカーは、そういった最新のオーディオシステム対応では当然なく、当時最新式だったオートリバースのクラリオンカセットデッキが、ダッシュボードのド真ん中に鎮座ましましております。

 

 で、このデッキ。

どうもこのクルマを買った時から正体不明です。

キチンと動くのか??

不用意に大事なテープを入れて、もしそのままテープを巻き込んだりしたら一巻の終わりです。

なので、試しにテープ型のアダプターをブッ差したところ、案の定、切り替えスイッチが勝手に右行ったり左行ったりして、明らかにぶっ壊れている模様。

 

 なので、バラしてみたらですね。

ドライブベルトが溶けてました。。。

37年も経つとベルトが自然に溶けるのかあ。。。

なので、秋葉原の電気街に出向き、替えベルトを探してはみたんですが、今度は秋葉原をもってしても、今やカセットデッキのベルトを置いているお店は軒並み閉店していました。

鳴呼、時代は移ろい、我が身は路傍に置きされし身の上、、なんてね。

まあそんなネット時代なので、ネット注文でなんとか、不都合なく動きそうな長さのものを入手いたしましたが。

 

 で、久しぶりにカセットテープを聴きながらの、夜のロングドライブと相成りました。

といっても、レッスン帰りに例によって無駄な遠回りをしただけですが。 

いやあー、テープの音ってなんか妙に柔らかい。。

今の音は、細かい音の粒を盤の上にちりばめて、埋め尽くしてあるので、非常に音がクリアーなんですが反面、いい加減なところがないというか、音にだけ忠実であるが故に、混ぜ物が一切ない気がします。

 

 比べて、テープの音は濁り酒、といったところです。

いろんな雑味が入ってきて、ひどいのはたるみ切ってピッチが下がって聞こえるんですが、やはりそれでも、それがなんか心地よい。

まあ程度にもよりますが。

 

 でも、音の空気に埋め尽くされた空間とでもいいますか、やはり柔らかいんですね。

レコードとCDの違いみたいなもんでしょうか。

デジタルのビットで緻密に聴かせる音の粒子ではない、なんかこう当時の言葉でいうファジーな感覚が、神経の解放を程よく促してくれるような気がします。

程よいスピードと心地よい音楽。

ヤバイ、またクセになりそうだ。

 

 でも久しぶりに、豊潤な体験をいたしました。

無駄に時間ばかりがあって、何をやっていいのか分からず、言い知れぬ焦りに苛まれながらも、どこかいい加減に流されながら、でも無駄なようで無駄ではなかった20代の懐かしい時間。

それが、当時の息づかいとともに、脳内を駆け巡っていった夜でした。

 

 もう3月半ばを過ぎましたね。

早い早いとよく言いますが、早いのです。実際。

でも数十年後に今を思うと、ああ、いい時代だった、と多分きっと思うことでしょう。

だから今も殊更に捨てたもんじゃあない、と思うようにして、また明日からやってゆきたいと思います。

もうすぐ春ですね。