夏は怪談。
今から話すお話は、すべて実話です。
私が20才くらいの頃のことです。
当時私は、大阪に住んでいまして、その頃はまだ、ワンルームマンションなどというリッチなモノが、あまりない時代でした。
私が住んでいたのは、古い学生アパートで、フロなし、共同汲み取りトイレ(一番奥は恐怖の開かずの間。汚すぎて)付きの、まるで戦後に建てたような、古い古い、モルタルアパートでした。
さて夏の蒸し暑い、ある晩のことです。
私はその日飲み過ぎて、夜中にふとトイレに立ちました。
深夜2時も過ぎたあたりだったでしょうか。
ミシミシと廊下を歩いてゆき、キイイ~とトイレに入りましたが、あいにくと電球が切れたらしく、真っ暗なままです。
すぐ裏手は、砂利敷きの粗末な駐車場でしたが、駐車場脇の電柱のあかりが、ほのかにトイレに射し込んでいたので、なんとか足元は確認でき、用を済ませました。
そこに立っていますと、開け放しの腐った木の桟の窓から、丁度真下の駐車場が見えます。
ふと気付くと、下の方から、ジャリッ、ジャリッと何かの歩く気配がします。
深夜2時。
薄暗い中で、かなり気味が悪かったのですが、気になるのでひょいと顔を出して下を覗くと、なんと、、、ただの人でした。
夜遅い仕事帰りのおっちゃんでしょうか、ハー怖かった~、とこっちは胸をなでおろしたその時、私の視線を感じたのでしょうか、おっちゃんが、ハッと上を見上げました。
一瞬、私はなんとなくバツの悪い気持ちが作用したので、サッと視線は外したのですが、顔はそのまま、窓の桟から、にょっと半分出した状態で、身動きしませんでした。
おじさんは、ちょっとギョッとしたみたいで、顔をそらしてまた歩き始めましたが、しばらく行くと、またハッと振り返りました。
私はなんとなく、頭はそのままダランと窓から出し、目はカッと虚空をみつめ、口は半開きの状態を保ちました。
たぶん下からは、真っ暗な窓から、不自然な角度に人の頭が、浮かんでるように見えたのでしょう。
しばらく双方とも、そうやって佇んでおりましたのですが、かわいそうに、おっちゃんは何かと勘違いしたらしく、
「うえ~~!」
と奇声を発して、脱兎のごとく走っていってしまいました。