砂漠に伸びたハイウェイの道脇を、縦に等間隔に歩いてゆく、シスターの列。
彼女らは、そこで一人の黒人青年(ホーマー)に、出会う。
無口だが、腹ペコの青年は、夕飯のご馳走を受ける。
ご馳走と言っても、教会の食事は飲み物と食パンふた切れ。
一応、足りない人用におまけのパンが、テーブルのバスケットに入っているが、当然ぜんぜん足りない青年は、そのパンをムシャムシャ食べてしまい、シスター達は半ば呆れて、顔を見合わせる。
そんな経緯ではあったが、放浪の青年は一宿一飯の恩義とばかりに、教会の建設に力を貸すことになる。
最初は、黒人の若造ひとりに何ができる?とばかりに周囲に白い目で見られていた彼だが、いつしかその誠実な人柄に、一癖も二癖もある白人の大人達が、彼に協力を申し出るようになる。
が、下心のある人間は寄せ付けもしない彼は、さらに周りに一目置かれるようになる。
そして、ついに除幕式の前の日。
彼は出来立ての教会の屋根に登って、クルスの刺さっているまだ塗りたての柔らかい土台に、自分の名前を指で書き、初めて満足そうな表情を浮かべる。
ようやく仕事をやり終えた、、、そんな信念の果ての笑顔。
教会も完成し、シスターはもう彼とは離れがたくなっていて、彼を置いておこうと、今までのようにあれこれ用事を言いつけ、なんとか引き留めようとするが、彼は、もうそれはすべて済んでいる、と静かに別れを言うと、教会をあとにする。
そしてまた砂漠のハイウェイを一人、旅立っていった。
ちょうど、一年前のあの日のように。
なんか、こんなストーリーだった記憶があります。
『野のユリ』 シドニー・ポワチエ。
初めて黒人でアカデミー賞を受賞し、『夜の大捜査線』など映画、TVシリーズでも活躍。
後年バハマ駐日大使なども務めた彼は、白人至上の当時のハリウッドでは異色の俳優で、わたしの心に残る昭和の思い出の名優でした。
7日、彼はハリウッドの自宅で、天に召されました。
子供の頃の思い出の名優がまたひとり、やっぱりさみしいですね。
でも、この世でのすべての仕事をやり終えた彼は、きっと満足そうな顔をしていたのではないでしょうか。
野のユリ、とは新約聖書から。
賃金を払わないシスターが、ホーマーに対しこの一節を説いて、未払いを煙に巻いた。
考えたら、超ブラックな雇い主だよなあ、、、