2022-12-01

味がしない

 いつ頃からか、吸うようになったタバコ。

 

 最初はハイライト。
これは、当時の私達にはおっさんタバコでした。

 

 更に上には、ピースというのがありました。
この戦前からあるようなじいさんタバコは、ハイライトを特盛にしたような、かなりなガツン系で、ごくたま~に買ってみては、四苦八苦しながら2、3日かけて、なんとか一箱を吸いきっていました。

 

 で、落ち着いた先の愛用タバコは、マイルドセブンセレクト。

この ”大人の揮発剤” にハマって20有余年。
その頃の私は、休憩時間にタバコを吸わない人を見ていると、なんか暇そうに退屈そうに見えて、可哀想に、チョー可哀想に思っていました。

 

 全くもってのお門違いな話ですが、当時は、そんな吸わない人びとを見ながら、ふう~っと紫煙を吐き出しながら、こんな幸せなトランスタイムを知らないなんて、なんと不幸なことだろう、と思っていました。

 

 でもいつしか、知らない間にタバコに人生を支配されるようになっていたんですね。

 

 体調を崩してでさえ、ほんの僅かの浮遊感、快楽を求めて、もうほぼ味わいも何も感じなくなっていたタバコに、手を伸ばし、火を点けるという、病的な依存性。
よく昭和のじいさんが、タバコの吸い殻を爪楊枝に差して吸いきっている図がありますが、まさにあんな勢いで、毎回根元まで吸いきっていたタバコ。

 

 そんなタバコを止める時が、ある時不意に来ました。
いや、それでも自分では一切止めるつもりは、全くもってなかったのですが。

 

 体が受け付けなくなったのです。
ある時、一口吸ってすぐ、反射的に灰皿に押し付けました。

 

 まずい。

 

 時間を置いて、幾度トライしても、またもやほんの2、3口で消してしまう自分。

まず、己のそんな行動自体が、たばこの不味さより、信じられませんでした。

へ〜、たばこ、あっさり消しちゃうんだ〜 !(◎_◎;)

そしてその日は、何度トライしても、ためらいなく灰皿にタバコを押し付けてしまってました。

 

 風邪を引こうが体調悪かろうが、あんなに吸いまくっていた大好きなタバコを、こうもあっさりと消し去ってしまうその心情。

働きもしないぐうたらダメ男に、ある日見切りをつけた瞬間の女心たぁ、さもこんな感じであらんかと。

 

 そこから、体調が戻ってからの、壮絶なタバコとのガチバトルが始まりました。

もちろん、禁煙中のタバ吉の誘惑、それはそれは半端なかったです。

 

  おい、またヨリを戻そうぜ。
  一口吸ってみなよ。ラクになるから。
  おい、今日かなりストレス溜まってんな、そんな時は付き合うぜ。火、点けろよ。

 

 そんなタバ吉を、頑なに跳ねのけ続ける日々。

それでも実にしつこく、手を変え品を変え、付きまとうダメ男のタバ吉。

 

 ですが、半年が経つ頃、こいつ使いもんにならねーな、と思ったか、タバ吉は不義理な私の前から、急にスッとどこかに行ってしまいました。

『どこへ行くのよ….』『知らぬ土地だよ….』

🎵ふぎぃ〜りの~🎵わた~ぁし~🎵 (by細川たかし)

まるで、演歌の世界です。

 

 あれから十年以上が経ち、すっかりタバコが抜けきった今は、何もしないぼんやりタイムを実に満喫しています。

 

 逆にタバコを吸う場所を求めて、喫煙コーナーに列を作っている方々を見ると、たくさんのタバ吉がその背後に見えます。

でも、ちょっと前は自分もあっちサイドの人間だったんだな、と沁々感じます。

彼等があの頃の自分みたいに、完全に中毒に陥ってないことを願いつつ、また喫煙事情の厳しい今、すごく気にして吸っていることは大変だなあ、といつも同情します。
それこそ彼らにとっては、全くもってのお門違いな話なのでしょうが。

 

 

 引き出しから当時のジッポー。

それを手にとっては、良くも悪くも、あの頃はおおらかだったなあ、と懐かしく思い出します。