2024-05-15

空港にて

 『どうもすいません』

と言ってお隣に座った品の良い老婦人が立たれて、私の前を通られました。

長椅子がたくさん並んでいる、空港のロビー。

私はたまたま、空いていた長椅子席の端っこに座っていたのですが、だんだん混んできて、席がいっぱいになってきました。

人の出入りも多くなってきましたが、前の席との間隔はそう広くはなく、人体の体積は減らしようがないんで、なるべく足をちぢこめて通りやすくします。

 

 その日は待ち時間が長くなっていたため、ご婦人は時折りお買い物、お手洗いに立たれるのですが、そのたび、

『何度もどうもすいません』

物腰低くそうおっしゃられます。

些細なことでも、丁寧に言葉に出しておことわりを仰る、そんなお人柄が伝わってきました。

 

 そうこうするうちに、ようやくその方の飛行機の搭乗手続きが始まりました。

 

 最後にもまた、

『どうも、また前をすいません。』

その物静かなおっしゃりように、思わず

『お気をつけて』

と、声をお掛けしましたら、

一瞬立ち止まり、豊かな笑顔で

『ありがとうございます』

とおっしゃられました。

 

 素敵な笑顔でしたね。

 

 大阪伊丹行きの通路を歩いてゆかれる、もう2度とお会いすることのない、老婦人の後ろ姿を見ながら、

(きっとこれからもお元気に、ゆったりと過ごされるんだろうなあ)

と、ちょっと幸せを、お裾分けしていただいた気分になりました。