2005-10-15

道に面した部屋

 さて今回は、私の幼少時代の、不思議体験をひとつ。

 

 幼稚園に入って間もない頃の話です。

私の幼馴染みに太成君というのがいまして、近所なので、よく彼のお家で遊んでおりました。

 

 太成君ちは三階建てで、一階は自営の作業場なので、お仕事の邪魔にならないように、よく二階のお部屋で、二人でいろいろと遊んでおりました。

でもふとある時期からでしょうか、3部屋あるお部屋のうちの、ひとつのお部屋。

そこは、いつも雨戸が締まっていて暗い部屋なのですが、その部屋で遊んでいると必ず、かすかな笑い声が聞こえてくるようになりました。

 

 最初は、こども心にも空耳かな、と思って、ほうっておいたのですが、だんだんハッキリと、聞こえてくるようになったものですから、一緒に遊んでいる太成君に、

「なんか声が聞こえるっちゃが、ヒッヒッヒッヒてゆうちょる。」

と言うと、

「なんも聞こえんが。。」

とアッサリ否定されました。

 

 あるいは、カセットテープとかを仕込んで、太成君がいたずらしてるのかな、とも思っていたので、そうでないと分かると急に恐くなってきました。

 

 それからも、その部屋でそうして2人で遊んでいると、

 

『ヒッヒッヒッヒッ』

 

という声が、どうも押し入れのあたりから、確実に聞こえてくるんです。

 

 

 「ホラ!聞こえるが!」

どうにも恐くなって、また太成君に訴えるのですが、

「なんも聞こえんて!」

と、彼はうざったそうに言うだけです。

 

 それから、その部屋で遊んでいると毎回必ず、かすかに

『ヒヒッヒッヒッ』

という声が、耳に届くようになりました。

 

 あきらかに、自分に対してだけ、

 

『オイ、そこのオマエ、オマエだよ!ヒッヒッヒッヒ』

 

という、あまり歓迎したくない意志を、明らかにその笑い声には感じました。

 

 とってもとっても恐いんですが、なにせ自分しか聞こえないし、あんまり怖がっていると、臆病なのをからかわれるのも嫌なので、必死に我慢していました。

 

 思い込みとかでそういう風に聞こえたにしても、ああもクリアーに聞こえるものかな、しかも自分だけ、と今でも不思議に感じています。

 

 子供の頃の話なので、それが、いつ頃まで聞こえていたかは憶えていません。

ただ小学生になって、しばらくした頃に遊びに行った時に、その部屋に一人で入ったことは憶えています。

 

 少しお兄さんになってたし、勇気を試したい気持ちで、その部屋にはいってみたのですが、その時には、もう何も聞こえてはきませんでした。

 

 いったいあの無気味な笑い声は、何を意味してたのでしょうか?

よくこどもは、そういうのに敏感といいますよね。

仮にそういう異層の世界があって、異界の住人がいたとすれば、

(コイツ、まだワシらの声がきこえるらしいぞ。じゃあひとつ、怖がらせてやろう)と、面白がってあんなことをしていたのかな、と。

 

 いずれにしても、あの無気味な声も、妖しの気配も、すっかりなくなってしまったあの部屋は、ただしんと静まりかえり、ゆっくりと、午後のときを刻んでいただけでした。

 

 かなり怖かった、幼少時の、懐かしいお話でした。