さて今回は、私の幼少時代の、不思議体験をひとつ。
幼稚園に入って間もない頃の話です。
私の幼馴染みに太成君というのがいまして、近所なので、よく彼のお家で遊んでおりました。
太成君ちは三階建てで、一階は自営の作業場なので、お仕事の邪魔にならないように、よく二階のお部屋で、二人でいろいろと遊んでおりました。
でもふとある時期からでしょうか、3部屋あるお部屋のうちの、ひとつのお部屋。
そこは、いつも雨戸が締まっていて暗い部屋なのですが、その部屋で遊んでいると必ず、かすかな笑い声が聞こえてくるようになりました。
最初は、こども心にも空耳かな、と思って、ほうっておいたのですが、だんだんハッキリと、聞こえてくるようになったものですから、一緒に遊んでいる太成君に、
「なんか声が聞こえるっちゃが、ヒッヒッヒッヒてゆうちょる。」
と言うと、
「なんも聞こえんが。。」
とアッサリ否定されました。
あるいは、カセットテープとかを仕込んで、太成君がいたずらしてるのかな、とも思っていたので、そうでないと分かると急に恐くなってきました。
それからも、その部屋でそうして2人で遊んでいると、
『ヒッヒッヒッヒッ』
という声が、どうも押し入れのあたりから、確実に聞こえてくるんです。
「ホラ!聞こえるが!」
どうにも恐くなって、また太成君に訴えるのですが、
「なんも聞こえんて!」
と、彼はうざったそうに言うだけです。
それから、その部屋で遊んでいると毎回必ず、かすかに
『ヒヒッヒッヒッ』
という声が、耳に届くようになりました。
あきらかに、自分に対してだけ、
『オイ、そこのオマエ、オマエだよ!ヒッヒッヒッヒ』
という、あまり歓迎したくない意志を、明らかにその笑い声には感じました。
とってもとっても恐いんですが、なにせ自分しか聞こえないし、あんまり怖がっていると、臆病なのをからかわれるのも嫌なので、必死に我慢していました。
思い込みとかでそういう風に聞こえたにしても、ああもクリアーに聞こえるものかな、しかも自分だけ、と今でも不思議に感じています。
子供の頃の話なので、それが、いつ頃まで聞こえていたかは憶えていません。
ただ小学生になって、しばらくした頃に遊びに行った時に、その部屋に一人で入ったことは憶えています。
少しお兄さんになってたし、勇気を試したい気持ちで、その部屋にはいってみたのですが、その時には、もう何も聞こえてはきませんでした。
いったいあの無気味な笑い声は、何を意味してたのでしょうか?
よくこどもは、そういうのに敏感といいますよね。
仮にそういう異層の世界があって、異界の住人がいたとすれば、
(コイツ、まだワシらの声がきこえるらしいぞ。じゃあひとつ、怖がらせてやろう)と、面白がってあんなことをしていたのかな、と。
いずれにしても、あの無気味な声も、妖しの気配も、すっかりなくなってしまったあの部屋は、ただしんと静まりかえり、ゆっくりと、午後のときを刻んでいただけでした。
かなり怖かった、幼少時の、懐かしいお話でした。