昔、家の近くに、ツバメが住んでいる家がありました。
家の主はおばあちゃんで、しょっちゅうお友達だか親戚だかのおばあちゃんたちと玄関に座って、明るくのどかに談笑している様子が見てとれました。
そのお家は、玄関から入ってすぐが広い土間で、敷居にお友達おばあちゃんたちが座り、家の中の主おばあちゃんと、いつも女子トークを繰り広げておりました。
ツバメは外ではなく、その土間の敷居の上に巣を作っていて、ツバメの巣のすぐ下にはフンが落ちてこないよう、板がしつらえてありました。
そして季節になると、毎年ツバメがそこで子供を産んで、階下の女子トーク炸裂中の往年ギャルの頭上1メートルを、スイーッスイーッと出入りしていました。
階下ではいつもテレビとにぎやか女子のおしゃべり、二階では子だくさん達のピーチクピーチクお腹すいたよ~の大合唱、お母さんツバメ達はハイハイハイ、と大わらわで行ったり来たり。
なんとも賑やかな、下町のお家です。
すごい低空飛行で飛んでくるツバメに最初はビックリしましたが、慣れてくると、なぜにあんなに人んちの中にまで入り込んでくるんだろう、と、耳横をかすめるように飛び交うツバメ達を、毎春のように不思議に思っていました。
きっと、猫ジャンプも届かないその場所は、理想的な物件で、ツバメと大家との関係が、とても良好だったのでしょう。
思っている以上に動物というのは人間性を看破できるようです。
今思うと、おばあちゃんゆえにだからか、毎朝早くにキッカリ同じ時刻に戸を開ける、夜がくると戸締りをする、人間は全く干渉しない、猫とかの天敵も寄りつくことができない。
ツバメは、しっかりその様子を観察していたんでしょうか。
で、ある日決意を固め、巣作りを敢行したところ、何も言われなかったので、毎年そこで子育てをするという信頼関係が、おばあちゃんとツバメの間で取り交わされたんでしょう。
まだまだ野生動物が、人の暮らしの中に同居していた時代ならではの風景。
こないだ、ふと思い出して懐かしく振り返った、昭和40年代のお話でした。