八王子の、とあるライブハウスが昨年末、店を閉じました。
開業は35年前ということですから、ちょうどバブル弾ける直前といったあたりでの開店だったようです。
とても落ち着ける大人のジャズのお店で、個人的にはとても気に入っていたのですが、やはり時の移り変わりとともに、すべては変わってゆくということです。
HPにさりげなく映し出された【閉店のお知らせ】という文字。
それをクリックすると、長年のご愛顧に感謝するママさんの言葉と、祝開店時のバブルヘアーの若い女性たちの写真。
長くて短かった時の流れが、淡々と語られておりました。
そこには八王子の懐かしい夜が、色々と思い出されるのですが、ある晩のこと。
お店に来ていただいたサラリーマンのお客さん、来店時からかなり良い感じにお酒が入っていて、じっと僕らの演奏を聴いていただいておられました。
演奏が終わるとおぼつかない足取りで近寄ってこられて、とても良かった!、と言ってくださり、その方はお店を出られました。
で、僕らも1時間後くらいにお店を出たのですが、一駅先の深夜の最寄り駅で、その方とバッタリ遭遇しました。
演奏が終わった時刻はもう11時すぎで、そこからウダウダして店を出て、ですから、もう終電があるかないかの時刻です。
人気がなくなった特に何もないうらぶれた細道で、その方はこれからどうやら行きつけのスナックに立ち寄ろうとされていて、
『あー皆さん、どうですか。良かったらご一緒しませんか?わたしご馳走します。』
と、おっしゃいました。
もちろん、もう12時半をすぎた時刻だったし、お礼を言いつつ丁寧にお別れしたのですが、その方は近くの何やら雑居ビルらしき、サビた鉄の階段を腰高な2階までトントンと上がって行き、あるピンクの看板の飲み屋に、すっと消えて行きました。
『あの人、確か甲府から来てるって言ってたよね。』
『あー、言ってたね。』
『もうすぐ1時だから、もう電車ないよね。』
『・・・』
『帰り、どうすんだろ?』
『タクシーか?』
『タクシーで甲府までぇ、、、は、ないんじゃない?』
『でも帰れないよね。』
『なんか、帰りたくない事情とかあるんかね?』
『なんか、昨今よく言われているような、家に居場所がないとか。』
『そう言われるとなんか、寂しそうだったね。』
『穏やかそうな人だったけどねぇ。』
深夜のすっかり寝静まった、八王子の裏街道をメンバーと歩きながら、飲み屋を訪れる人たちが抱える他人には言えない裏事情。
廃墟のようなビルに消えていくおじさんのその背中に、それをちょっと垣間見てしまった、そんな夜があったことを、ふと思いましました。
閉店のライブハウス。
そんないろんな酔客たちの、心の拠り所だったのではないかなあ、とあの晩のことを思い出すたびに、そう思ってしまいます。
ほんの1、2年ほどの薄い縁ではありましたが、ありがとうございました。
そして35年間、どうもお疲れ様でした。